2017年03月24日

灰白色の葉をつけた

灰白色の葉をつけた
 もよおす館のなかで、身をまもるものとてない窓辺んなかにいて、ジョージ・ベネットは窓のほう、ウィリアム・トビイは暖炉のほうに横たわっていた。ベネットはわたしがおぼえたのと同じ奇妙な眠気に捕われたらしく、すでに熟睡していたので、次の見張りを、うつらうつら首を振りはじめていたトビイにやってもらうことにした。いま思いだしてみると、このわたしが一心に暖炉の火を見つめていたのは、妙といえば妙だった。
 高まりつつある雷鳴がわたしの夢をおびやかしたにちがいない。短時間眠っているあいだに、わたしは不吉きわまりない光景を夢に見た。一度ぼんやりと目を覚ましたが、それはおそらく、窓のほうに横たわっているベネットが、おちつきなくわたしの胸に腕を投げかけてきたからだろう。トビイが当直の役目をはたしているかどうか確かめることのできるほど、わたしの意識は覚めていなかったが、いまになってみると、その点が何としても心残りに思える。あれほどまでに凶《まが》まがしいものの存在を痛切に感じたことはなかったのだから。その後わたしはふたたび眠りこんでしまったにちがいない。突然、これまでの経験や想像のすべてを遙かに超えた、ものすごい絶叫にたたきおこされたそのとき、わたしの意識は悪夢めく混沌状態にあった。
 その絶叫のなかでは、人間の恐怖と苦悶の最奥に潜む感情が、忘却をしろしめす黒檀の門柱に、希望もなしに狂おしく、やみくもにすがりついているようだった。恐るべき至上の苦悶のこもる信じられないような光景が徐々に遠のいていくにつれ、わたしは赤い狂気と悪魔の嘲笑とをはっきり知覚した。灯はなかったものの、右側に人気がなくなったことから、トビイがいなくなっていることがわかった。どこへ行ってしまったのかは、神ならぬ身の知る由もない。ただわたしの胸には、左側に眠っている者が重い腕をまだ載せていた。
 それから、山全体を揺り動かすかのような落雷がおこって、暗澹《あんたん》たる窖《あなぐら》めく木立を照らしだし、ねじくれた古木をひき裂いた。すさまじい落雷が放った、思わずぞっとするような閃光《せんこう》に、わたしの隣で眠っていたものが突如としてはねおき、窓の外からさしこむ目眩くような光芒をうけて、わたしが見すえていた暖炉の上の煙出しに、なまなましい影を投げかけた。わたしがなおも正気を保ち、生きながらえていることは、想像もつかない驚きだ。なぜなら、わたしが煙出しに見た影は、ジョージ・ベネットのものではなく、いや、およそ人間の姿をしたものではなく、まさに地獄の最奥の火口からあらわれたかのような、穢らわしくて異様きわまりないものだったからだ。どんな鋭敏な人間もしかと理解できないような、どんな名筆もその一部とて描ききれないような、名状しがたい、見るも恐ろしい忌むべきものの姿だった。次の瞬間、わたしは震避孕 藥え、歯の根もあわないような悪寒状態のままに、呪われた館にただひとりとり残されていた。ジョージ・ベネットとウィリアム・トビイのふたりは、抵抗した様子もないどころか、まったく何の跡も残さずに消えてしまっていた。これ以後ふたりの姿を見かけた者は誰もいない。



Posted by jamely at 12:07│Comments(0)
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