2017年03月03日

うなもやが周囲の地形を

 うなもやが周囲の地形を
ヴェルヴェットにふたたびセ・ネドラの馬を先導させて、一行はわびしい西部ダーシヴァの田舎を南へかけぬけた。小柄な王妃は片手で荷馬Neo skin lab 呃人車のへりにしがみつき、片手で護符をにぎりつづけていた。「ダーシヴァ軍はウルヴォンの軍勢がまちぶせしているのをまだ知らないわ」彼女は大声でみんなに教えた。
「もうじき気がつくんじゃないかね」シルクがどなりかえした。
「ガンダハールの国境まであとどのくらいだ?」ガリオンはザカーズにきいた。
「二十リーグほどだろう」
「おじいさん」ガリオンは言った。「ぼくたちは本当にそんな南まで行かなくちゃならないのか?」
「それほど南下する必要はあるまい」老人は答えた。「ベルディンが前方を飛んでいる。わしらがウルヴォンの偵察隊よりじゅうぶん先まできたら、すぐにベルディンが山中へ誘導してくれるだろう。わしとてそれほどガンダハールを探検したいわけではないさ、おまえは?」
「ぼくもだ」
 かれらは進みつづけた。
 頭上にたれこめた雲が目に見えてぶあつくな雀巢奶粉ったかと思うと、ガリオンは冷たい最初の雨滴が顔にぽつんと落ちるのを感じた。
 丘をのぼりつめたとき、ベルガラスが前方をよく見きわめるためにあぶみに立った。「あそこだ」と指さした。「ベルディンが旋回しとる」
 ガリオンは丘の向こう側の浅い谷のほうへ目をこらした。黒いけし粒ほどの鳥が一羽、空中でものうげにゆれている。一行が丘をかけおりると、鳥は急転回して、ゆっくりと翼をはばたかせながら西へ飛びさった。かれらは向きを変えてあとを追った。
 断続的な雨が冷たい霧雨に変わり、薄い膜のよぼかした。
「雨のなかを馬で行くのもおつなもんじゃないか?」シルクが皮肉たっぷりに言った。
「この場合は、そうですね」サディが答えた。「霧のほうが雨よりましだが、雨は視界を悪くするし、あらゆる種類の人間がわたしたちをさがしてますから」
「そういうことだ」シルクは認めて、マントをしっかりまきつけた。
 風雨にさらされた石が地面のあちこちからとびだし、地形はだんだんけわしくなってきた。三十分ほど苦心して進んだあと、一行はベルディンの誘導で浅い谷へはいった。進みつづけるうちに、谷の壁はしだいにけわしく、高くなってきた。ほどなくかれらは細い岩だ劉芷欣醫生らけの峡谷を進みはじめた。
 午後の三時ごろには、全員ずぶぬれになっていた。ガリオンは顔をぬぐって、前方をうかがった。西の空がいくぶんあかるくなって、雨のあがる気配を見せている。ダーシヴァ上空にたれこめていた陰気な薄闇のために、いかに気が滅入っていたかはじめて気づいたガリオンは、クレティエンヌをせきたてて走らせた。いったんまた日光のもとへたどりつければ、不安な気持ちも消えてくれるような気がした。



Posted by jamely at 10:46│Comments(0)
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